【占い】亀甲占い・獣骨占いの歴史と神秘の起源
亀甲占いと獣骨占いとは何か?
占いといえば、現代ではカードや星占いを思い浮かべる人が多い。しかし、もっと根源的で、自然とつながった方法があった。それが「亀甲占い」と「獣骨占い」だ。
このふたつの占術は、古代中国や日本などで行われていた最古の占い方法であり、単なる迷信ではなく、国家運営に関わるほどの重要な儀式として機能していた。政治・軍事・農耕などの重要な決定は、これらの占いによって導かれた神託に基づいていたのだ。
特に「獣骨占い」は、牛や鹿などの肩甲骨を焼いてできた亀裂の形から吉凶を読み取るもので、「亀甲占い」は亀の腹甲を使い、やはり焼き入れで割れた形状から神の声を読み解いた。
現代の感覚からすると、骨の割れ目に意味を見出すことは不思議に思えるかもしれない。しかし、これこそが当時の人々の“見えないものを見ようとする力”であり、想像力と自然観察眼の融合だった。
古代中国における亀甲占いの起源
亀甲占いの発祥は、中国・殷王朝(紀元前1300年頃)にまでさかのぼる。
特に現在の河南省安陽市にある「殷墟」からは、膨大な数の「甲骨文」が発見されており、そのすべてが占いの記録だった。
甲骨文とは、亀の甲羅や獣骨に刻まれた古代文字であり、中国最古の漢字資料でもある。文字は、占いたい内容と、その結果を記録したもの。たとえば、
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「明日、雨は降るか?」
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「敵は攻めてくるか?」
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「祖霊はこの儀式に満足しているか?」
といった問いを骨に刻み、焼き入れを行い、できたひび割れの方向や深さなどを読み取って回答を導き出していた。王や神官はこの結果をもとに実際の政策を決定したという。
驚くべきことに、こうした占いの記録が「文字」となり、やがては漢字の基礎となった。
つまり、占いが文字を生み、文字が歴史を記録する手段になったという、文化の始点にもなっているのだ。
日本における獣骨占いの歴史
日本でも、獣骨を用いた占いは弥生時代から確認されており、特に奈良時代以降、律令制の成立とともに儀式的に制度化されていく。
その代表が「太占(ふとまに)」と「亀卜(きぼく)」である。
「太占」は主に鹿の骨を使用し、吉凶を占うもので、朝廷の祭祀に深く関わっていた。
『日本書紀』にもその記録が残っており、特に国家的大事の際には、神の意志を問うためにこの占術が使われていた。
一方、「亀卜」は中国からの伝来であり、亀の腹甲を焼いてひび割れから神意を読み取る方法。これは伊勢神宮や出雲大社など、神道の中でも特に格式の高い場所で今なお祭礼の一部として用いられることがある。
日本では、これらの占いは「卜部(うらべ)」と呼ばれる専門の神職によって執り行われていた。
卜部は神の声を聞く媒介者であり、骨に浮かび上がるひびを「読む」ことで、神の言葉を人々に伝えていた。
占術の方法とその解釈
骨占いの方法は一見単純に見えるが、実際は極めて繊細かつ形式的な手順が必要とされた。
まず、使用する骨や亀甲は十分に乾燥させ、清めの儀式を経て準備される。次に、専用の器具で焼き入れを行い、割れ目を人工的に生じさせる。
焼き入れによってできる割れ目には、いくつかの基本的な形状がある。
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「Y字型」…変化・分岐・選択
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「放射状」…広がり・影響力
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「縦割れ」…破壊・警告・断絶
こうした割れ方には意味が付与され、卜者(占い師)はそれを過去の占籍(記録)と照合しながら、最も妥当と思われる神意を導き出す。
このプロセスを簡単にまとめると:
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使用する骨・甲羅を清める
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焼き入れ位置を厳密に決める
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焼き入れでひびを作る
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割れ目の形と位置を詳細に観察
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解釈を記録として残す
ここには“偶然”が紛れ込む余地がないほどの厳格さがあった。占いというより、ある意味では学術的な観察と記録の技術だったのだ。
現代における亀甲占いと獣骨占いの影響
現代では、こうした占術は実際に日常で行われることは少なくなったが、その精神や形式は今もさまざまな形で生きている。
たとえば、博物館や大学の民俗学部門では、亀甲占いや獣骨占いのレプリカを使った再現実験が行われ、占術の再検証が進んでいる。
また、特定の神社では古儀を再現する儀式が行われることもあり、学術的にも文化的にも再評価されつつある。
民間信仰の中でも、「骨の音に耳を澄ます」など、自然の兆しに意味を見出す姿勢が占い文化の根本として引き継がれている。
オカルトやスピリチュアルの文脈でも、「古代の占術」として注目される機会が増えているのも特徴だ。
かつては政治をも動かした亀甲と獣骨のひび割れ。いまでは文化財として、そして人間の“知る欲望”の象徴として、静かに私たちに問いかけ続けている。
まとめ|骨と甲羅が語る、神の声
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亀甲占い・獣骨占いは、古代の国家占術として機能していた
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甲骨文は中国文明の源流でもあり、記録文化の始点でもある
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日本では太占や亀卜として制度化され、神道とも関わる
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焼き入れによる割れ目の解釈は厳密で記録重視だった
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現代でも文化財や儀式としてその遺産は生き続けている
骨や甲羅に宿る神の声。それは決して“古びた迷信”ではなく、人間が自然や神と向き合い続けた叡智のかたちだ。